10月, 2018年

建設業の技能実習生が失踪する原因を真剣に考えてみた

2018-10-02

法務省が発表した平成28年10月末時点での日本に滞在する技能実習生数は21万1108人。平成28年の失踪者数は5058人。失踪者は全体の2.39%。平成29年10月末時点での日本に滞在する技能実習生数は25万7788人。平成29年の失踪者数は7089人。失踪者は全体の2.75%です。0.技能実習生の失踪が多いのは男性の技能実習生が多いです。特に建設業の失踪が目立ちます。去年の法改正により、偽装難民申請の取り扱い方法が変更されました。法改正後はカンボジア側でも政府からアナウンスメントがあり一旦は失踪も減少しましたが、失踪は無くなりません。

失踪を手助けする失踪ブローカーの氾濫

空港での見送り
最近では出国前から接触するケースもあります。※注意※彼らは失踪していません。

技能実習生に接触して、甘い言葉で誘惑する失踪ブローカーがいます。彼らは、フェイスブックや人づてといった、あらゆる方法を使って技能実習生に声をかけてきます。「すごい簡単な仕事で給料は今のところよりも良いよ」「一ヶ月に30万、40万円といった給料が稼げるよ」「住む場所も提供するし何の心配もいらないよ」とあることないこと技能実習生につたえて失踪をそそのかします。

失踪ブローカーは労働者の提供をすることでバックマージンを受け取っており技能実習生のその後には無関心です。

一人でも多く失踪をさせてお金を稼ぎたい、それが失踪ブローカーのマインドです。実際に失踪した技能実習生の状況を調査していた時にビックリしたのが、失踪先から、また失踪するという構図がありました。失踪ブローカーへの支払いを踏み倒して次の失踪先に失踪する。

失踪情報は各国で出回っている

日本で働いている技能実習生は国を問わず、失踪情報を持っていると考えた方が良いです。東南アジアの発展途上国からでてきた田舎の純粋な若者でもスマホを手にすれば、情報は簡単に入ってくる時代です。フェイスブックなどのSNSから失踪ブローカーの魔の手は迫ります。ITで便利になった世の中ではすぐに簡単に広範囲に情報は広まります。情報を遮断しようとしても無理です。そして多くの方が見落としているのが、技能実習生で来る若者は本来であれば失踪はしたくありません。逃げざるをえない環境から失踪します。逃げざるをえない環境は、職場の環境です。職場の人間関係、コミニュケーション不足、異なる文化、異なる土地での孤独感、、、、もちろん技能実習生 自身の責任もあります。もう嫌だ、こんな環境から逃げ出したい、この苦痛から解放されたい、、、と感じて失踪してしまうケースが多いです。

もっとお金がもらえるから、もっと休みが多いから、そんな甘い誘惑よりも、何としても今の苦痛から逃れたい、こう考えて失踪に至る若者が多いです。

不法就労の現場がなくならない

なぜ失踪を取り締まれないのか?会社から失踪した技能実習生を連れ戻すのは難しいのか?この質問はよくあります。不法就労を助長させる人々があとを絶たないのが根本的な問題です。不法就労は、・不法就労させたり,不法就労をあっせんした人は「不法就労助長罪」となります。3年以下の懲役・300万円以下の罰金です。外国人を雇用しようとする際に,当該外国人が不法就労者であることを知らなかったとしても,在留カードを確認していない等の過失がある場合には,処罰を免れません。

政府も組合も企業も送出しも人手不足で不法就労をなくせられない

実際に不法就労の現場を押さえることはできるのか?とても難しい問題です。失踪した技能実習生を発見できたとしても失踪しただけでは罰則はありません。不法就労の現行犯で捕まえないといけないため極めて実行が難しいです。失踪先の滞在場所から不法就労の現場が特定できたら張り込みをして、失踪した技能実習生を迎えに来た自動車を尾行して、不法就労の現場に警察官と入国管理局の方と一緒に現場で現行犯でおさえる。刑事ドラマさながらの例えでしたが、実際に誰がそこまでするのか?とても難しい問題です。そもそも不法就労を助長させる雇用主や、不法就労を見て見ぬふりをしている方々、不法就労という行為が犯罪であると言った周知活動も十分とは言えないのかもしれません。政府も取り締まりを強化していますが、まだまだ追いついてないのが実態です。

なぜ建設業の失踪は多いのか

男子技能実習生
カンボジアの若者は本当に良い笑顔をします。

なぜ建設業は失踪する技能実習生が後を絶たないのでしょうか?わたしたちも送出した技能実習生からヒアリングを続けた結果、原因と考えられる要素が特定できてきました。

・拘束時間の長さ

・現場仕事の大変さ

・荒っぽい人々の多い労働環境

以上の3点が具体的な理由として浮かび上がって来ました。

第一に拘束時間の長さが挙げられます。毎日の仕事現場までの移動距離は数十分から2時間以上あります。この移動時間は賃金が計算されてないケースが散見されます。法的にも移動時間は通勤時間とも捉えられるため違法行為ではありません。ですが実際に働く技能実習生からすると、拘束時間は長いのに、なぜ自分の時給は他の職種の技能実習生と比べて不当に安いのかと考える傾向があります。

夏はあつい、冬は寒い、日本人の若者が来ない労働環境

建設業の現場仕事は、とても大変な仕事です。夏のあつい日に外で太陽がぎらぎらと照っている中で汗をたまのように流しながら仕事にはげむ、とても大変な仕事だと思います。さらに冬の寒い日には寒い中で動き回って働いていれば体は温まりますが、指先の裂傷などは夜になって痛みがじんじんと出てくると訴える技能実習生の子もいました。建設は日本を支える尊い仕事です。ですが労働環境は、とても大変な状況です。日本人の若者はガッツが無くなった、根性がないという見方もできますが、実際の建設業の方々が働く現場は、とても大変な環境です。日本人の担い手が少なくなっていることに納得できる部分もあります。(ひとつことわっておきますが、私は建設業を批判しているのではなく、どうやったら建設業界が持続しながら発展することができるのか真剣に考えている内の一人です。立場はカンボジアの送出し機関ですが志は同じです。)

荒っぽい気性の現場の職人さんたち

「あぶねえだろうが!!」「ぼさっとしてんじゃねえよ!」「バカ!!!」建設業界は、仕事現場で命を落とす危険性もあるために、職人の方々が気を張って仕事をしているのは十二分に理解できます。一人の軽率な行動がまわりの人々の命を危険にさらす可能性もある現場です。早く相手に注意するために、どうしても語気が強くなってしまう傾向があります。これは仕方のない気持ちはわかるのですが、カンボジアの若者にとっては失踪をしたくなってしまう一因になります。カンボジアの文化では大きな声を出すことは、あまり良しとしません。カンボジア現地に来ると理解できますが、街中でクラクションの音はあまり聞こえません。渋滞がすごい場所や、混雑している場所でもクラクションの数はとてもとても少ないです。これはカンボジアの文化だと思います。人々は、大きな声をだすことは好きではありません。怒るときに大きな声を出すときもあるそうですが、そもそも怒るのも好きではない国民性です。大きな音に対しては敏感です。大きな声で怒鳴ってしまう、これも失踪の一因です。言葉の暴力は良くないですが、肉体への暴力も技能実習生の話を聞いていくと、意外と聞く場合があります。ちょっと押しただけ、ちょっと頭をこづいただけ、でもやられた技能実習生の側には、「ちょっと」という感覚はありません。こころに傷を残す場合もあります。特に頭を触るのはカンボジアでは厳禁です。他人の頭を触るのは、とても失礼な行為です。

失踪原因で多いのは人間関係の不和

失踪の原因を調査していくと、多く出てくるのが日本企業の社員さんとの人間関係の不和があります。事業主や経営者の方は、技能実習生が会社の戦力であるため可愛がったり目をかけてくれるケースが多いですが、現場で働く社員さんにとっては異なるようです。目の前の現場で行われる終わらせなければならない仕事に追われ、さらに日本語を勉強中の技能実習生に手取り足取り仕事を教えなければいけない。生まれた国も育った環境も異なる異文化の同僚と仕事を進める際にはストレスを感じる方も少なくありません。

理解してないのに「わかりました!」と返事をしてしまう技能実習生の心情

人間関係の不和は日本人の社員さんだけに責任があるわけではありません。技能実習生にも責任があります。日本人の社員さんから仕事の段取り進め方を教わって、完全に理解していないのに「わかりました!」と元気よく返事をしてしまい言われたことと別の行動をしてしまう。結果的に仕事を失敗してしまいます。失敗自体は仕方がないことですが、日本人の社員さんからすると、なぜ教えたのに違う行動を取るのか?この人は嘘つきなんじゃないか?信用できない人間のでは?と信頼関係が崩れ始めます。最初はお互いに笑顔で始まった人間関係が少しづつ変わり始めます。

技能実習生は、なぜ「わかった!」といってしまうのか?

あなたは外国人に話しかけられた経験はありますか?私は経験があります。街中で目の色が青い金髪の人に、まったく分からない外国語で話しかけられてビックリした経験があります。なにかを必死に伝えようとしているが何を言いたいのか分からない?自分では手に負えないのでソーリーソーリーと連呼して、その場から立ち去った事があります。技能実習生の心情もこの私の経験に近いのではないか?と感じます。実際に何人もの技能実習生にもヒアリングをしましたが、ヒアリング中は大丈夫です。と私にも言います。同僚のカンボジア人スタッフにも言います。でも仕事の現場では「分かりました」と言ってしまう。

気まずい、相手に申し訳ない、逃げ出したい

英語圏の人と話して苦笑いしてイエスイエスと連呼する日本人と似ていると私は感じます。

日本語で話しかけられて「分かりません!」と元気よく主張できる技能実習生はめずらしいと思います。ほとんどの技能実習生はニコニコしてわかった風な顔をして、その場をやり過ごします。相手の言ってることが分からない、話しかけてくれる日本人の社員さんに申し訳ない。とりあえず「わかりました!」と言っておこう。その結果、人間関係がこわれていく。。。

現場で一緒に働く人間とこまめにコミニュケーション

遠足での一こま2
コミニュケーションの一環として学校で遠足に行った際の集合写真

結局は本質に戻っていきます。やはり人です。現場ではたらく人達に聞く。技能実習生に聞く。同じ国の人間からヒアリングをして何を感じているのか何に悩んでいるのか、困っていることはあるのか聞き続けることが大切です。もちろん人間なので本音はでてきません。その人間と向き合い理解して察するしかないのではないかと最近は感じます。いくら直接に悩みを聞いてもでてきませんが顔色は隠せません。最近は表情が変わったな、元気がないな、普段とちがう行動が目に見えたら、それは技能実習生からのサインだと思います。サインをできる限り早くキャッチして失踪の芽を早期につんでいくしかないと思います。ここまで読み進んでいただいて期待した回答ではないかもしれません。ですが、やはり人間関係に近道はないと思います。関わる人々の寄り添いかたが重要です。時間はかかりますが信頼関係が構築されれば、その人間関係は受け入れ企業にとっても財産になると私は強く思います。海外展開も夢ではないと思います。技能実習生の持続可能な成功への階段づくりを企業使命として我々は活動しています。そのためには受け入れ企業の成功こそが関わる技能実習生の成功の確度を高める極めて重要な要素だと我々は強く信じます。

Copyright© 2014 カンボジア人技能実習生の送出し機関 All Rights Reserved. sakura consulting